前回、身体のバランス(姿勢安定)について、内耳の前庭器官などの話をさせて頂きました。
このバランスは、身体を動かさない場合の静的安定と運動中の動的安定があります。
前者は脳と脊髄をつなぐ脳幹を利用し、後者は基底核‐皮質が利用されることが知られています。
このバランス能力は他の機能と同様に年齢と共に衰えてきます。
そこで、バランス能力を維持するためのトレーニング(運動)が注目されています。
バランス能力を高める運動は、片足立ちのバランス運動だけでなく、
筋力増強運動や柔軟運動などを混合して実施する方が効果的であることが分かっています。
なお、このバランス能力を高める運動は毎日実施する必要はなく、週に2,3回で十分なのです。
更に、近頃では身体のバランスは二重課題(デュアルタスクとも言います)を
与えたトレーニングをすることによって効果が高まるという研究も進んできました。
二重課題とは聞きなれない言葉ですが、2つのことを同時に行うトレーニングのことです。
例えば、片足を上げながら、本を読む。まっすぐ歩きながら、詩を諳んじる。
もっと簡単に言うと、テレビを観ながら片足を上げるでも良いのです。
これらによって、脳のバランス感覚が鍛えられるのです。
なお、これらの研究をまとめた論文(Clin Interv Aging, 2017, 12, 557-577)では、
これらの二重課題のトレーニングは高齢者には非常に効果的ですが、若者にはそれほどの効果はないようです。
1961年福岡県生まれ。理学博士、医学博士。平成22年度文部科学大臣表彰され、わかりやすい解説に定評があり雑誌・テレビ出演も多い。